アジアのテクノロジー企業:未来を見据えた5大トレンド

新型コロナウイルス感染症の拡大による危機は、それまですでに進行していた技術変革の多くを加速させました。人々が教育、仕事、買い物、娯楽などをオンライン化していく中で、ポストコロナ時代の世界を再構築するであろうテクノロジーの5つのトレンドと、この変革の中でアジアのテクノロジー企業が果たす役割をご紹介します。

①学習スタイルの変化~オンライン教育市場の拡大~

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で多くの学校が休校となり、オンライン学習は世界的な現象となりました。学校が再開された後もオンライン学習は増えており、あらゆる年齢層に教育を提供するための費用対効果の高い方法として注目されています。

イーストスプリング・インベストメンツ上海拠点の中国A株運用チームでは、「人口規模、インターネットの普及率、テクノロジー進化などから、中国のオンライン教育市場は他に類を見ない規模になり得る」と考えています。いまや、中国においてオンライン学習は決して珍しくありません。中でも2013年以降、成人向けのオンライン教育市場は成長を続けており、現在では国内市場の約半分を占めています。

また、近年特に成長しているのは、K-12(幼稚園から12年生(高校生))の放課後学習の領域で、2013~2018年の年間平均成長率は前年比+85%、2018年の総売上高は302億人民元となりました。

この領域では今後も高い需要が予想されています。中国では2020年に児童6,500万人の小学校進学が見込まれていますが、放課後学習の普及率は、台湾・日本・韓国の70%、香港の85%に比べて低く、28%となっています。米コンサルティング会社のフロスト&サリバンによると、中国のオンライン教育市場規模は、総売上高が2023年には6,960億人民元に達し、2020年予測値の2,940億人民元の2倍以上まで拡大すると予測されています(図表1)。 次世代通信規格「5G」の普及や技術革新による通信コストの低下に後押しされ、オンライン教育の競争力が高まり登録者数が増えることで、さらなる成長が見込まれます。フロスト&サリバンは、中国K-12市場のオンライン放課後学習市場の2018~2023年の年平均成長率は+65%、2023年の総売上高は3,670億人民元と、国内のオンライン教育市場の半分を占めるようになると予想しています。

図表1: 中国のオンライン教育の市場規模(総売上高、2013年~2023年、単位:億人民元)

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ブルームバーグによると、2010年から2019年の間に世界で100社近くの教育関連企業の新規株式公開(IPO)が行われましたが、直近の3年間では中国と香港がその大部分を占めています。新型コロナウイルス感染症の発生によって教育への意識が高まる中、特に人口が多く地理的に分散している国ではオンライン教育の普及率がより高まる可能性があります。これは、アジアのオンライン教育セクターが今後投資機会を生み出す可能性を示唆しています。

②アジアのクラウド市場の拡大

新型コロナウイルスの感染拡大後、企業では経営の見直し、経営資源の有効活用、業績の回復を最優先する目的からクラウド(ネットワーク経由でのサービス提供)の導入が加速しました。クラウドによって世界中のさまざまな企業ではリモートワークが可能となり、社員はネットワーク上にある同じプラットフォームにアクセスできるようになりました。またクラウドは、コンピューター関連のインフラの準備や維持が不要なためコストパフォーマンスが高く、通信速度の高速化やソフトウェア・アプリケーションの効率的なアップグレードも可能となります。

世界的なクラウドサービス市場は、2020年には2,644億米ドルに達すると予想されており、今後2年間は、前年比+15%の成長が見込まれています。(図表2)

図表2:世界のクラウド・サービス市場(単位:10億米ドル)

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米ITサービス会社のインターナショナル・データ・コーポレーションによると、現在、世界中の企業のテクノロジー関連支出の3分の1以上は、クラウドのインフラ構築関連が占めるとされています。

中でも、中国のクラウド関連のインフラサービス市場は世界全体の10.8%1と、米国に次ぐ世界第2位の市場規模を誇っています。中国の同市場は現地企業が独占しており、アリババ、テンセント、バイドゥが3大企業です。また、中国企業であるキングソフト・クラウド・ホールディングスは2020年5月に米ナスダック市場への上場に成功しました。パンデミックのさなかにおける5億1,000万米ドル以上の資金調達は、投資家が中国のクラウド市場の高い成長に注目していることの裏付けともいえるでしょう。

イーストスプリング・インベストメンツ上海拠点の中国A株運用チームのリサーチによると、中国の多くのクラウド企業は、新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、動画や音声チャットツールなどのサービスを無料で提供し、新規および既存のユーザーが業務を安定的に行えるようサポートしてきました。また、研究機関のワクチン開発を後押しする目的で、彼らが薬剤スクリーニングを効率的に進められるようサービスの無料提供を実施しました。同運用チームでは、人々の行動様式の変化や企業の事業継続計画(BCP)の見直しにより、今後も多くのアプリケーションがクラウドへ移行することが想定されることから、中国のクラウド市場はポストコロナの時代においても成長すると予想しています。

また、2023年にはアジア太平洋地域のクラウド市場の3分の1を中国が占め、他の3分の1はインドと日本、次いで韓国、オーストラリア、香港、シンガポールの順になると予想しています。現在同地域における最大のクラウドサービス・プロバイダー2は依然としてアマゾンであり、2位はアリババ、3位にマイクロソフトが続いています。

クラウド市場のリーダー的企業となるには、世界的な知名度、技術的な専門知識、認知度の高いブランド力、豊富な資金力、そして長期的な視野を持つことが必要ですが、中国の野心的なクラウド企業は、これらのほとんどを満たしていると考えられます。

③データセンターの需要の高まり

クラウド、5G、IoT技術(モノのインターネット。今までインターネットにつながっていなかったモノ同士のデータが繋がり付加価値が生み出されること)の導入が進むにつれ、データセンターの需要が高まっています。データセンターは、企業のデータや情報を集約して保管および処理する機能を持つ重要な施設です。リモートワーク、教育、映像配信などを支える重要なインフラとなっています。

これまで東南アジアでパブリッククラウド(インターネット経由で、広く一般のユーザーや企業向けにクラウド環境を提供するサービス)企業が新しいサービスの展開や拠点を設立をする際に、シンガポールがその中心的な役割を担ってきました。アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、グーグル・クラウド・プラットフォーム(GCP)、フェイスブック、アリババ・クラウドなどがシンガポールでデータセンター施設を展開しており、同国は世界で最も成熟した市場の1つとなっています。しかし、土地不足とゾーニング(データにアクセス出来る範囲を区切ること)の制限が、シンガポールにおけるデータセンター競争の潜在的な課題となっています。

大手クラウド企業は、東南アジアの他の地域でも新たなクラウド・リージョン(クラウドサービスで利用する、データセンターを設置している独立したエリアのこと)の展開や計画を発表しており、インドネシアがその大半を占めています。AWSは2021年末か2022年初頭までにインドネシアでクラウド・リージョンを立ち上げる予定で、GCPは2021年にジャカルタでクラウド事業を立ち上げることが予想されています。さらにアリババ・クラウドは、インドネシア初となるデータセンターの立ち上げからわずか10ヵ月後の2019年初めに2つ目のデータセンターを立ち上げました。

イーストスプリング・インドネシアの最高投資責任者であるAriPitoyoは、「電子商取引(eコマース)の小売業者、タクシー・送迎サービス業者、オンラインの旅行代理店(OTA)などプラットフォームを提供する企業の急増によって、インドネシアのデータ消費量は過去5年間と比べ、10倍に増加する」と予想しています。実際、モバイル決済、デジタルバンキング、SaaS(クラウド上で提供されるソフトウェアサービス。ユーザーはネットワーク経由で機能を活用)など、さまざまな新しい分野でデジタル化が進んでいます。さらに、伝統的なビジネスにおいてもデータ分析が活用されるようになった結果、データ消費量は大きく増えています。ボストン・コンサルティング・グループは、「クラウドサービス需要の増加によって、2019年から2023年にかけてインドネシアの国内総生産(GDP)は累積360億米ドル押し上げられ、34万5,000人の雇用が創出される」と予想しています。

インドネシア以外では、マレーシアにおいても、データセンター事業の成長が期待されています。2017年からアリババ・クラウドのデータセンターがクアラルンプールで稼働しているほか、2021年にはマイクロソフトがマレーシアでのクラウド事業を立ち上げることも予定されています。

大きな成長を遂げる東南アジアのデータセンターの市場規模は現在数十億米ドル程度ですが、今後4年間でその規模は2倍以上になると予想され、2021年までにヨーロッパを抜いて世界最大のデータセンター市場となる可能性が示唆されています。(図表3)

図表3:東南アジアのデータセンターの数

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東南アジアのデータセンター市場の成長は、安定したITインフラ、整備された電力供給網や光ファイバー網などに牽引されてきました。特にシンガポールの場合は、高い技術を有する労働者の多さと税率の低さも追い風となっています。

接続性を最大化し、高速化の通信環境を整えるため、企業はデータセンターを顧客企業やその事業により近い場所へ移転する傾向にあります。また機密保護の観点から、特定のデータについては国内で保管するよう定められているため、データセンターを現地に設置するというケースが増えています。例えばマレーシアは、政府機関や企業が保有する全てのデータを国内で保管するよう求めています。また、インドネシアの規制当局も機密保護の理由から、国民が所有する財産や金融取引に関するデータについては、インドネシア国内に保管するよう定めています。

データセンターの運用には大量の電力が必要とされるため、高額な電気料金だけでなく、二酸化炭素の排出量など環境への懸念も高まっています。そのため昨今では、データセンターの消費電力のエネルギー源に注目が集まっています。今後もアジアのデータセンターが競争力を維持するためには、環境に優しい再生可能エネルギーへの移行が求められるでしょう。また運営企業は、低排熱建材、ヒートポンプ、その他の蒸発冷却装置などの導入を検討する必要があると考えられます3

④産業用ロボット

オートメーション化(機械装置などを組み合わせて作業を自動化すること)とロボティクス(ロボットの設計・製作・制御を含む機械工学)は、新型コロナウイルスの感染拡大後に起きている世界的なサプライチェーン(供給網)の変化に恩恵をもたらすことが見込まれます。企業がデュアル・サプライチェーン(特定の製品や部品などを複数のサプライヤーから受注すること)に移行するにつれ、同じ生産量でも、ロボットを含む資本ストック(社会や企業の持つ生産設備)は増加すると考えられます。現在、世界の産業用ロボットの稼働台数の86%4を、アジアが占めています。ただし、今後欧米諸国の企業が生産拠点拡大のため、リショアリング(海外移転した生産拠点を再び自国に戻すこと)を行った場合、より多くのロボットを購入することが見込まれます。人件費が高い欧米諸国では、コスト低減のためオートメーション化に目を向けることが考えられるためです。

また、学習機能をインストールすることでロボットのプログラミングが容易となり、導入しやすくなると思われます。研究開発分野では、ロボットが人の声や動きに反応できるようにするなど、より高次での人間とロボットの協業に注目が集まっています。

こうした中で、様々な企業5が、インターフェースの標準化に取り組んでいます。開発が進めば、産業用ロボットと工業用機械が繋がることでIoT化が進み、メーカーの垣根を超えた通信が可能になることが見込まれます。また、リースが可能になれば、中小企業にとってもロボットの導入は現実的となるでしょう6

バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチによると、西欧諸国におけるサプライチェーンの変化は、各国の労働力人口の減少局面で起きるため、オートメーション化以外の選択肢は限られてきます。こうした世界的な潮流の中、日本には様々な産業用ロボット分野において大きなシェアを持つ上場企業が多く、高い競争力を持っていると考えられます。(図表4)

図表4:産業用ロボットの各分野における代表企業

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イーストスプリング上海拠点の運用チームは、「中国も研究開発とロボットの稼働実績の両面で頭角を現しており、ロボット工学のバリューチェーン(価値の連鎖)を急速に広げている」と見ています。中国のシステム・インテグレータ企業(IT戦略を一貫して行う情報通信企業)は、半導体の設計、ソフトウェア、人工知能(AI)を実際のアプリケーションに導入しています。

工業メーカーを中心とした顧客企業は、効率性や品質の向上、オートメーション化によるコスト構造の改善などを実感していることと思われます。

⑤5Gネットワーク・インフラ市場の競争

5G(第5世代移動体通信システム)は、これまでの様々な通信技術と比較しても、世界経済により大きな影響を与えることが想定されています。高速、低遅延、多接続を可能にする5Gの技術によって、人々の働き方、生活から娯楽に至るまで、大きな変化がもたらされることが見込まれます。さらに2035年までに、2,230万人の雇用と世界の実質生産高の5%に相当する13兆米ドル以上の経済効果を創出すると予想されています7

そのため、米国と中国が5G開発の主導権を握ろうとするのは当然とも考えられます。イーストスプリング上海拠点の運用チームは、「プリント基板(PCB)や無線周波数(RF)部品といった、中国国内の需要が特に高い5Gのインフラ関連への投資によって、国内機器メーカーと部品調達企業の双方が大きく成長する可能性がある」と見ています。

米政府が中国のファーウェイとその関連会社に対し、米国の技術が使用された半導体の購入を禁止するという決定を下したことは、半導体が両国において重要な位置を占めることを浮き彫りにしました。実際に半導体は、本レポートで取り上げている5G以外の4つの技術分野においても必要不可欠です。

例えば、リモートワークやeコマースなど自宅でのネットワーク利用の増加に伴い、通信容量やデータ転送速度などにおいてより性能の高い機器の需要が高まると考えられます。したがって、処理能力がより高い半導体を製造できる企業が恩恵を受けるでしょう。

リモートワークの浸透によって企業活動の一刻も早い回復が期待される中、クラウドへの移行は急速に進んでいます。的確かつ迅速な診療や人々の行動分析などに対するニーズが高まる中、ヘルスケアやスマートシティ(次世代都市)の分野において人工知能への投資が加速する可能性があります。また、オンラインゲームの増加に伴い、よりスペックの高いゲーム機器の需要も高まることが想定されます。

さらに、今も継続している米中貿易摩擦に伴い、両国は半導体や部品、製品の自給自足体制を一層進めることになるでしょう。こうしたすべての事象により、半導体の需要は高まっていくと考えられます。

半導体の内部にあるチップの能力は、計算を行うコンピュータ回路であるトランジスタのサイズにかかっています。ムーアの法則によれば、技術の進歩に伴ってトランジスタが小さくなるにつれて、チップ上のトランジスタの数は2年ごとに2倍に増えると言われています。最小のトランジスタが搭載されている最先端のチップを製造するためには、高い技術力とコストがかかるため、最先端あるいはそれに準ずるチップを製造できる企業は限られています。現状最先端である5nm(ナノメートル、10億分の1メートル)チップを製造できる企業は、世界でも台湾セミコンダクター(TSMC)とサムスン電子(SEC)の2社のみです。米国に本拠を置くインテルは、2023年8月までに5nmチップの製造の実現を目指しています8。現在、16nm未満のチップの製造能力の大部分は台湾と韓国の企業が占めています。 (図表5)

図表5:世界における16nm(ナノメートル)以下の半導体の生産能力の割合(本社拠点ベース)

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イーストスプリング・インベストメンツ韓国のリサーチ部門責任者であるGregKangは、「SECやTSMCなどの大手半導体メーカーは、すでに最先端のEUV(ExtremeUltraviolet、極紫外線)露光技術を採用しており、より小型で高性能な半導体チップを低コストで製造することが可能になる」と指摘しています。SECとTSMCは、2020年後半から2021年初頭にかけてEUV装置を使用した半導体チップの量産開始を予定しており、消費者はこれまで以上に5Gの持つ可能性を身近に感じることができるようになるでしょう。

イーストスプリング・インベストメンツ台湾の運用責任者であるKevinLiuは、「世界的なサプライチェーン改革が、台湾の半導体サプライチェーンに利益をもたらす可能性は高い」と考えています。TSMCに代表される台湾の半導体製造企業は、3nmチップの製造開始において他国より優れた技術力を備えています。台湾のスマートフォン、電力制御、無線LAN向け集積回路(IC)の大手設計会社は、中国政府の自国生産を進める政策の動向にも注目しています。仮に米国から中国への主要技術の移転禁止によって、将来的に米中における自国での技術開発路線が進展する場合、台湾の半導体関連企業は米中双方の企業を顧客に持つ良好な位置を維持できる可能性が高いと考えています。なお、TSMCは米国に120億米ドルの5nmの半導体製造工場を建設することを発表しています。

アジアのもつ大きな可能性

各国のロックダウン(都市封鎖)が徐々に緩和され、段階的に元の日常を取り戻しつつある中でも、人々の行動様式は大きく変化しています。クラウドやデジタル、オートメーション化への移行は、新しい製品やサービスだけでなく、生産性の向上の機会をもたらします。投資家は、今後10年間で起こる技術的なトレンドにも目を向ける必要があるでしょう。テクノロジー競争が激化し、規制が目まぐるしく変化する環境下、投資家はテクノロジーセクターの中で企業を厳選する必要があります。このような環境下では、大きな優位性と成長の見込みがあるアジアが、非常に重要な存在になると見込まれます。